「伝わる」デザインってなんだろう?〈“伝えることば”の考究記〉
どんなお仕事でも、「伝わる」ものをつくるのって難しいですよね。
はじめまして! 科学コミュニケーター/デザイナーとして活動している、山内と申します! ぜひ気軽に“じーにょ”とお呼びください!
皆さんは、資料や企画書、デザイン物などを制作するとき、どのような工夫をされていますか?内容を作り込む、ライティングをがんばる、ビジュアルを整える、効率を重視する……さまざまなこだわりで取り組まれていると思うのですが、最終目標はみんな変わらないはず。
それは、相手へ的確に情報を「伝える」ことです。
一方的に投げかけるだけでなく、相手の理解や興味を伴うように伝える。つまり、「伝わる」ものをつくることを目指していますよね。でも、それがなかなか難しい。どうにかして「伝わる」ものを作りたい!作れるようになりたい!と思う方は多いのではないでしょうか。
よくよく考えてみると、「伝える」ことは、すなわち「ことば」を交わすこと、であるように思えます。会話や文字といった言語に限らず、イラストや写真、動画などのビジュアルも、身振り手振りや空間演出も、相手に伝えるための「ことば」の一つ。それらをいくつも織り交ぜ紡ぐことで、私たちは互いに伝え合っているのです。
伝える「ことば」を見つめ直し、さまざまな「ことば」を習得できれば、より伝わるものを作れるようになるのではないか。そんな想いから、「文字から拡がる、伝える“ことば”」を考えてみる機会をヒラギノフォント公式noteさんにいただきました。ぼくからあなたに一方的に知識を共有するのではなく、一緒に考え試行錯誤する「考究記」として記していければと思います。
ぜひ、お楽しみください!
「伝える」って、やっぱり難しい
何事も、まずは下ごしらえから。一つひとつの「ことば」に着目する前に、今回は「伝えるってなんだろう?」と根本に立ち返ってみることにしてみましょう!
日常の会話から、プレゼンや文書、研究発表、教育、商品の宣伝、SNSでのやりとりまで……ぼくたちが暮らすこの世界は、「伝える」という営みにあふれています。特に昨今は、一人ひとりの専門性や価値観を尊重し、情報を共有する時代。理解や良さをシェアするべく、仕事・プライベートを問わず「伝える」行動をされているのではないでしょうか。
ぼく自身も、ふだんより「科学コミュニケーション」なる、科学技術の知見を人に伝えるような活動をしています。科学館で来館者と対話したり、ワークショップを行ったり、展示をつくったり。果ては、マスメディアを通した広報や、政策から科学への触れ方を設計する……など、「専門家(研究者)と、非専門家(一般の人・社会)の間をつなぐ」方法を、さまざまな視点からずっと模索しています。
そのなかで強く思うのは、「伝える相手」と「伝える方法」は本当に多種多様であり、“最適”な伝え方を見つけることは本当に難しい……ということです。
「伝える」とはつまり、「人」が受け取り解釈するということ。伝える相手の感覚と感性で、受け取られ方が左右されてしまいがちです。人間の知覚や認識の曖昧さ、身体的な多様性、知識の差、理解の早さ、興味や文化圏の違い、社会情勢と価値観、年齢や立場による経験の差など……一人ひとりが異なる「個人」であるうえに、状況や環境などの条件によって“最適”な伝え方も変わります。つまり、確実に伝えようと本気になるほど、考慮したいこと(パラメータ)が多すぎるし、すべてが複雑に絡み合ってくるわけです。
そりゃあ、誰にとっても難しいことになりますよね。
「伝える」ことを捉えなおす
「伝える」という営みが、なぜ、どのように複雑になっているのか。一歩踏み込むためにも、今一度シンプルに捉えなおしてみましょう。
最も基本的な「伝える」シーンとして、1対1のコミュニケーションで考えてみます。登場人物は2人。自分と、伝える相手です。
この2人が何かしらをやり取りすることで、「伝える」が成立するわけですが……この世にはテレパシーも電脳もないので、“何かしらをやり取りする”ために自分が考えていることを具現化する必要があります。同じく、相手も具現化されたものを受け取ることで、初めて解釈できるわけですね。
自分が考えていることを具現化することは、「自分の内面を表へ現す」こと。つまり、「表現」ですね。この表現されたものを相手が受け取ったとき、人間の五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)を通して感じ取り、脳が働いて解釈する。これが「伝わる」になるわけです。
ただ、「伝わる」ことを目標にしたとき、表現はなんでも良いわけではありません。相手が受け取りやすい方法で届けることも、「伝える」という営みに含まれてきます。
口頭なのか、印刷物なのか、ディスプレイ表示なのか。書籍なのか文書なのかスライドなのか。サイネージなのかSNSなどのプラットフォームに載せるのか。
どのような媒体を通せば、相手に届きやすいか、受け取ってもらいやすいか。媒体の選択で、相手の届き方も、表現方法も大きく変わります。本気度の高いプロジェクトほど、この設計を丁寧にやっているはずです。
さらに、ここで終わらず、もう一掘り。
「伝える」という営みは、それ自体が目的になることはあまりありません。別に目的があって、その手法として「伝える」必要が生まれていることがほとんど。
そのため、目的を達成するために相手にどのようになってもらいたいのか、どんな行動をしてもらいたいのか、ゴールを見据えておかないと、適切な媒体も選べず、表現も難しくなっていきます。
また、相手に伝わることが大切であるため、自分が持っている知識をそのままぶつけるわけにもいきません。相手が求めている形に適切に整理整頓して、共感をしてもらいやすい味付けをして…といった情報編集も欠かせません。
そうなると、届ける相手のこともしっかりと理解しておきたくなります。無意識的にも意識的にも何を求めていて、どんな背景があって…とリサーチ+想定が必要に。だんだんマーケティングみたいになってきましたね。
もちろん本気度によりますが、「伝える」という営みには、こんなに複雑なことがたくさん含まれているのです。そりゃあ、難しいもんです。
ここまで話を拡げてきましたが、すべてを同時に考えていくのはなかなか大変なこと。ここでは、表現すること、それを届ける手法をまとめて「伝えることば」として捉えてみます。そのうえで、視覚的な「ことば」に絞り込みつつ、どのようにデザイン(設計)できるか模索していきましょう。
代表的な「伝えることば」の種類
視覚的な「伝えることば」に絞っても、その表現方法は多種多様です。そのなかでも、触れる機会の多いものをピックアップしてみると、
文字と文字組み(文章や書体)
色と配色
イラスト
インフォグラフィック
写真・動画
アニメーション
があります。これら一つひとつは、あくまで表現する手法。ビジュアルを構成する要素でしかありません。それらを紙面や画面といった“カンバス”にすべて集約し、伝え方や媒体の特性、ニーズなどを考慮しながら配置していく工程が「レイアウト」。
それぞれの要素には、強みと弱みがあります。それぞれの特徴をつかみつつ、相手のことを想いながらバランスよく配置していく、という流れが理想の工程です。
それぞれがどんな「ことば」なのか、次回よりひとつずつ取り上げて考えていきたいと思います。ぜひ一緒に「伝わることば」探っていきましょう!
どうやって「伝わることば」をつくる?
最後に、よくある疑問の「ツールはどうしたらいい?」についても考えて終えたいと思います。
先に、ぼくの考えからお伝えしておくと、
使い慣れたツールから始めてOK!
本気度が上がってきたら、プロ用ツールを使ってみる!
と考えてみるのが良いのかな、と考えています。
ビジュアル制作ができるツールは、2024年現在でも非常に多く提供されています。オフィスツールでは、MicrosoftのPowerPointやAppleのKeynoteとったプレゼンスライド制作ソフトなど。Webツールでは、Canvaといったテンプレートが充実したサービスなど。ノンデザイナーでもビジュアルを制作できるツールやサービスは充実しています。どのツールでも、基礎は何も変わりません。まずは使い慣れたものでつくりながら、「ことば」に向き合ってみるのが、最終的な近道になるのではないだろうか……と考えています。
かなり使いこなれてきた、または既にビジュアル制作の経験があれば、Adobe製品やAffinity製品など、プロが使うようなツールに乗り換えてみるのもオススメです。敷居は高いものの、機能が充実しているはず。
これらのツールは、あくまでぼくたちが使う道具でしかありません。ツールを変えたらいきなり伝わるビジュアルを作れるようになる!ということはあまりなく、結局はひたむきに「ことば」に向き合うのが大切なのかな、と思います。
ぼくも十数年は向き合ってきたような気がしますが、まだまだわからないことだらけの未熟者です。ぜひ、一緒に考えていきましょう!
著者プロフィール
山内俊幸(Wimdac Studio)
科学コミュニケーター/デザイナー。科学技術と人、社会との関係をつむぐ「科学コミュニケーション」にデザインの領域から挑戦するため、活動を展開。日本科学未来館の科学コミュニケーターを経て、Wimdac Studioとして展示やイベントなどの企画、編集、執筆、制作、実施などを行う。同時に、「じーにょ」名義で同人活動も展開しており、代表作は『PowerPoint Re-Master』シリーズ。2022年に『パワーポイント・デザインブック 伝わるビジュアルをつくる考え方と技術のすべて(技術評論社)』を出版。ちなみに専門は天文学。