見出し画像

デザインコンサルファームMIMIGURIと考えるブランディングとコーポレートフォント、フォントの未来

みなさんは「コーポレートフォント」についてご存じですか?

企業のあらゆる経済活動において、一貫した印象を保持するために管理・運用されるフォントをコーポレートフォント(企業制定書体)と呼びます。

この連載記事では、コンサルティングによる戦略策定と、デザインによるコミュニケーションの実践を行う「株式会社MIMIGURI」さんをお迎えして、企業におけるブランディングの考え方や、企業のデザインとコーポレートフォントの関係性、コーポレートフォントを導入するフェーズや、コーポレートフォントの効果について、幅広い事例を交えつつ、座談会形式でインタビューを行った様子を全3回の記事でお伝えします。

ブランディングについて検討を始められる方や、組織作りや理念をブランドに落とし込むプロセスについて知りたい方、コーポレートフォントについて検討している方、コーポレートフォントがどのような価値を生み出すのかを知りたい方は、この記事を読むことで企業のブランディング、コーポレート・アイデンティティやビジュアル・アイデンティティの進め方、コーポレートフォントについて深く知ることができますので、ぜひ最後までご覧ください。

コーポレート・アイデンティティ(CI)とは、企業独自の組織文化や特性などを定義したものです。主にあらゆる経済活動に基づきながら自社の存在価値を高める目的があります。

ビジュアル・アイデンティティ(VI)とは、CIなどによって明らかになった企業の理念や特性を、視覚的な情報として定義したものです。シンボルマークやロゴタイプ、名刺やWebなどのブランディングツール、商品や店舗などのデザインをVIによって一貫した表現ができるようになり、自社の特性を最大限引き出して社内外に伝える目的があります。

MIMIGURIと創造的な組織を目指すためのCCMの紹介/自己紹介

では、まずMIMIGURIのカタヤマさんから、MIMIGURIの会社紹介をお願いします。

カタヤマ:
株式会社MIMIGURIのカタヤマと申します。MIMIGURIは、2021年3月1日にふたつの会社が合併してできた会社です。ひとつは、企業の戦略コンサルティングを行い、その戦略をデザインで実践する「DONGURI」という会社です。もうひとつは学術研究に基づくワークショップを通じて、企業の組織の土壌を耕し、組織の課題解決をファシリテートする「Mimicry Design」という会社です。

私たちが掲げている「Creative Cultivation Model(CCM)」という、「創造的な組織の原則」があります。このCCMを通じて、MIMIGURIを紹介いたします。

私たちは、様々な企業や組織に「分断された組織の知」がある、と考えています。たとえば、企業のなかには、様々な人の知見であったり、人とのつながりであったり、そうした創造的な要素がありますが、それが組織のなかで分断されている、という課題があると考えているんです。

MIMIGURIはこの「分断された組織の知」を、CCMを通じて編み直し、創造的な組織になるためのコンサルティングやワークショップ、そして設定した課題解決の実践として、デザインを行っている会社となります。

このCCMは、東京大学の大学院情報学環で特任教授をしている代表の安斎が考案、開発したものです。CCM、Creative Cultivation Modelといきなり言われても困ると思うので、もう少し説明させてください。

私たちは、企業のなかには「組織レベルの創造性」や「個人レベルの創造性」など、様々なレベルでの創造性があると考えていて、そのあいだでうまく創造性が回らない、機能しないという課題があると考えています。

一方で、組織の理念や戦略、思想やイデオロギーがあって、そこで働く個人にも、衝動や「自分はこういうことをやりたい」という思い、キャリアプランなどがあります。

そうした、「組織がやりたいこと」と「個人がやりたいこと」が分断されていることによって、それぞれの連携が進まずに、様々な問題につながっていると考えています。分断は組織対個人だけでなく、組織対組織、個人対個人でも起こりえます。

組織や個人をうまくつなげて「ひとつの生命体」としてきちんとした組織を形成するための「構造」が、CCMとなります。

まず、我々は組織の理念や哲学を「組織の心臓」みたいなものだと考えていて、それを体現しているのが組織である、と位置づけています。

私たちは、組織の理念を全員が学習して習得する過程で、組織のなかのチームが目標を一致させながら対話関係をつないで、さらにチームに所属するひとりひとりの衝動と接合している状態にする、ということを目標としています。また、組織は理念を更新しますから、それを学習によってチームが再解釈し個人の衝動に影響している状態も目指します。

現代の組織論は、各論的な発展、効率性を求めた結果、無機的で機械的なアプローチによって分断されている状態といえます。それによって「組織の知」が分断されていると考えています。

これを解決するには、現代における組織を最適化する方法とは異なる、全体的・有機的・生態学的なアプローチが必要であると考えました。

これがCCMを開発した経緯となり、CCMが必要である理由となります。

次に、このCCMをどのように実践するのか、についてお話しします。

CCMを実践するためのプロセスモデルとそのアセットは次のような図になります。

CCMを実践するプロセスモデルは、組織の哲学に立ち戻ること、そして組織のリサーチ、仮説設定や課題定義、プロトタイピング、形成的評価や定着に向かうという一連のプロセスとなります。

今回のインタビューはCIにおけるコーポレートフォントの役割が重要なキーワードになっていると思いますが、これは目に見える要素になります。

一方で、CIの「策定」や「実行」は目に見えません。今回は事例などを通じてその点もお話しします。

さらに、個々のプロジェクトで得た知見を次のプロジェクトに活かしたり、リサーチをまとめたり、知見を発信したりすることで、知を循環させることも実践しています。

 研究成果、実践知を通じて得た「組織創造の知」を軸に、多角的に事業を展開しています。

──ありがとうございます。

では、ここからは本日ご参加いただきましたMIMIGURIのお三方から、簡単に自己紹介をお願いします。

カタヤマ:
はい。私はもともとデザインの仕事をしていなくて、アパレル業界を経てニューヨークのSchool of Visual Arts (SVA)を卒業してから、デザイナーに就いたというちょっと特殊なキャリアとなっております。

デザイナーとしては、デザイン会社のペンタグラムで、ポーラ・シェアというグラフィックデザイナーのアシスタントをしておりました。そこでは企業や美術館などのCIやサイン計画、コーポレートタイプやカスタムタイプの制作などに携わっておりました。

前職のペンタグラムでは、フィラデルフィア美術館のエキシビションのデザインや、カスタム書体なども制作しています。

2018年よりMIMIGURIの前身のDONGURIに参加して、オーストラリア大使館のスポーツ外交キャンペーンのアイデンティティや、スタートアップ企業のロゴのデザインなどを始めとした戦略やリサーチに基づいたアイデンティティシステムの制作を行っております。

座談会の後半で、さらに別の事例を交えてお話しします。

──続きまして、吉田さん自己紹介をよろしくお願いします。

吉田:
はい、株式会社MIMIGURIの吉田直記と申します。アートディレクターとしてデザイン業務に携わっています。

制作物としては印刷、ウェブ、パッケージ、イラストレーションなど、幅広く担当しています。

特に最近はブランド開発におけるVI設計を担当する機会が増えてきています。

こちらのgroxiさんの事例では、VI設計のほか実際に使われるコーポレートサイトのデザインや名刺などのデザインを担当しました。

──なるほど。デザインやイラストのテイストの幅が広いですね。

吉田:
そうですね。クライアントに合わせた開発を行っていくので、結果的にイラストも含めてテイストが幅広くなっているのかなと思います。

──ありがとうございます。それでは今市さん自己紹介をお願いします。

今市:
今市と申します、よろしくお願いします。

東京造形大学を卒業して、新卒で現MIMIGURIとなるDONGURIへ入社しました。

他のふたりと同様に、CI開発におけるVIのデザインやブランディング設計に携わっており、ロゴタイプやシンボルマーク、ウェブ、印刷物の設計・デザインを担当しています。

老舗のブランドからCDジャケットのデザインなど、様々なビジュアルデザインを担当してきました。

また近年では、そのブランドに適した声の形を考察し、それをロゴタイプやフォントによって体現できる範囲を探るアプローチが増えています。

その活動の一環として、文字回りの分野をひとつの強みとしておりまして、ブランドやタイトルのレタリングなども手がけております。

また、会社内のフォント開発事業である「katakata」というサービスを1年ほど前に開始しました。

ブランディングでは、企業やサービスのイメージを伝えるための世界観をどう構築するかが重要視されます。そのVIの要のひとつとなるフォント周りを強化するためのご提案をkatakataでは行っています。

制作するにあたり、ブランドのイメージに沿った声色がどのような印象なのかをクライアントと話し合います。そうすることで、最終的な成果物の品質向上に加えて、自身のブランドの理解度を高める効果も得られます。

欧文、和文のフォント開発の事例もご紹介します。

昨年は、今までに自分が学んだり経験したことをまとめたタイポグラフィの本も出させていただきました。

以上となります。

──今市さんありがとうございました。文字に関連する実績やご経験が豊富ということで、本日はコーポレートフォントについてもより詳しいお話が伺えればと思います。

良いCI/VIを生み出すために重要な経験とは

プロフィールをお伺いして、お三方ともブランディングやアイデンティティの策定というお仕事は共通していますが、経歴にフォーカスしますとかなり違うと感じました。

そこで、ブランディングやCI/VIに携われるようになった理由やきっかけがあれば、お聞かせいただけますでしょうか。

カタヤマ:
デザイナーになる前のアパレル企業で「ビジュアル・マーチャンダイジング」と呼ばれる、ディスプレイデザインなどを通してブランドを運用する経験がありました。そうした経験のなかで、ブランドやVIのガイドラインの存在を知りました。

いくつかのブランドを運用した経験があったので、ブランドによって使いやすいガイドラインと使いにくいガイドラインがあることに気がつきました。

また、現場で各スタッフが自由にブランドを運用してしまって、ビジュアルがバラバラな状態になっている、ということも目にしました。

そうした経験を通じて、ガイドラインをローコンテクスト化すること、つまり「誰にでも使いやすいミニマムなガイドラインとはどんなものだろう」と考えたことが、今の仕事につながっていると感じます。

吉田:
僕の場合はどちらかというと自身の欲求がもとになっています。

MIMIGURIに入る前に制作会社に3年ほど在席していたのですが、その時はキャンペーンサイトのような、広告代理店が上流で色やテイストを指定して作っていくWebサイト制作が中心でした。

当時そこでは自分が作ったものがこの先どういう使われ方をするのか見えないことが多く、自分の作るものが誰にどんな状態で届くのか理解したいという思いが強くなっていきました。

ちょうどその頃、ワンストップでブランドをクライアントと一緒に作っている会社が当時のDONGURIでした。僕の場合はデザインしたことの実感を追い求めている、という部分が大きいからこそ、今VIの仕事を積極的にやっているんだろうな、ということを振り返って見ると感じます。

──なるほど。同じデザインでもコンセプトが決まっているキャンペーンサイトを作り続けるのと、クライアントと対話してガイドラインを作り上げ、運用して初めて効果が現れるVIのお仕事とでは、大きく領域が違いますね。

吉田:
そうですね。特に大事なのは「運用」かな、と思います。運用のしやすさも考慮したVIも合わせてブランドを定義したとしても、そのブランドが意図通りに運用されることはなかなか難しいんです。

なので、クライアントにガイドラインを渡したあとの運用の在り方について、特にブランド定義後の運用を直接並走して関わることのできないシーンの多い受託業務ベースのデザイナーは、一度は頭を悩ませた経験があるかと思います。

僕もそうしたVIを運用する難しさを感じているからこそ、ガイドラインの作り方やガイドラインそのものの工夫だけでは限界があり、良いVIを作るためには組織やチームに対して自分自身やMIMIGURIが働きかけていくことが重要であると気づきました。そうしたことがモチベーションとなって今VIに携われているのだとと思います。

これはあとにお話しするコーポレートフォントにもつながっていく部分ですね。

今市:
僕も内発的な動機で振り返ってみると「機能性」にひかれるところがありますね。

入り組んだ情報を整頓して読みやすい紙面にすることもデザインの大切な機能だと思うし、一方でデザインの造形美がもたらす力も同じく人の心を動かす機能としての魅力だと思うんです。その点で、フォントは、情報を伝達させるためのインフラ的な機能と、読み手に意図した印象を感じさせるエモーショナルな機能を持ち合わせた面白い媒体だと感じています。

もちろんインフラとして、フォントを通して文字が読めるということが一番重要な機能性だとは思うんですけど、フォントには、読めること以上の価値が潜在的に存在していると考えています。

──文字の機能性は「読めること」だけではない、とは?

クライアント様とコーポレートフォントの開発や選定をする過程によって、クライアント様が自社の認識や自分たちの在り方などを再認識する、あるいは在り方について深く考え直す、ということが必然的に発生するんです。

これも文字やフォントの機能性のひとつだと思っていて、こういうところに面白さを感じるからこそ、自分は文字に重きを置いてデザインをしているんだと思います。

──文字を読めるという要件を満たすだけではなく、クライアントと一緒にコーポレートフォントを考えるプロセスがCIとしての役割を果たしているという面で、コーポレートフォントの開発自体に機能性があるんですね。


MIMIGURIさんをお迎えした座談会は全3回を予定しております。今回の記事では、組織やチームの在り方、そしてブランドに対するMIMIGURIさんの考え方を通して、CI/VIやコーポレートフォントがどのような役割を担っているかについて伺うことができました。

本連載の第2回目となる次回は、CI/VIを考えるプロセスや、コーポレートフォントを提案するタイミングなどについてお話しいただき、どのような組織がコーポレートフォントを検討すると良いかを知ることができます。

ヒラギノフォントでは、コーポレートフォントを導入したいとお考えの企業様や、デザインファーム様からのお問い合わせにいつでも受け付けております。どうぞお気軽に下記フォームからお問い合わせください。

フォントについて無料で相談してみる

最後までご覧いただきありがとうございました。新しい記事の公開情報は、noteの通知やTwitterから受け取ることができますので、ぜひフォローをお願いします。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!